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中枢神経系に炎症を起こした犬の脳組織におけるスフィンゴシン-1-リン酸の発現を調べた研究

投稿者:武井 昭紘

スフィンゴシン-1-リン酸(Sphingosine-1-phosphate、S1P)は、受容体を介して中枢神経系の恒常性維持に関与しており、且つ、神経の炎症にも関わっているとされる伝達物質である。一方、話は変わるが、犬に見られる原因不明の髄膜脳炎(meningoencephalitis of unknown etiology、MUE)は、文字通り炎症が起きている理由が分からない病気として知られている。つまり、神経の炎症にも関わっているとされるS1Pに着目して、MUEを分析することは臨床的に意味のあることなのだ。

 

冒頭のような背景の中、韓国の忠北大学は、①神経学的に健康な犬、②MUEの犬、③実験的に作出された自己免疫性脳脊髄炎の犬を対象にして、S1Pが結合する受容体S1PRの発現を調べる研究を行った。なお、同研究では、S1PRに対する抗体を利用して3者から得られた脳組織を免疫染色している。すると、以下に示す事項が明らかになったという。

◆①②③の脳組織におけるS1PRの発現◆
・①では神経細胞、星状膠細胞、希突起膠細胞、内皮細胞に発現していた
・②③の同じ細胞ではアップレギュレーションしていた
・②③では白血球にも発現していた

 

上記のことから、②の脳組織の炎症においてS1Pは重要な役割を担っていることが示唆される。よって、今後、過剰に脳組織に発現したS1PRおよび白血球に発現したS1PRにS1Pが結合することを防ぐ治療薬が開発され、その有用性が検証されることを期待している。


アップレギュレーションが起きるメカニズムが解明されると、MUEの予防法が考案できるかも知れません。

 

参考ページ:

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38182045/


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