犬猫の消化器トラブルには抗生剤が良く処方される。しかし、ある研究によると、この抗生剤に意味は無く、処方してもしなくても経過は変わらないとされているのだ。そうであるならば、耐性菌の出現が問題になっている現代において、「処方をしない」という選択肢が望ましい。では実際ところ、臨床現場での抗生剤使用状況はどうなっているのだろうか。使用が正当化できない症例はどれ程いるのだろうか。
冒頭のような背景の中、イギリスの大学らは、過去4年間(2014年4月~2018年9月)に200名を超える獣医師が相談を受けた犬猫の消化器トラブル23000件以上の診療記録を解析する研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったという。
◆イギリスにおける消化器トラブルを抱える犬猫に対する抗生剤療法◆
・約83%の症例は軽度のトラブルであった
・最も多い主訴は下痢(出血なし)と嘔吐であった
・犬の約29%、猫の約22%に抗生剤が処方されていた
・抗生剤が処方される可能性が上がるイベントは下記であった
1.出血を伴わない下痢(犬2.1倍、猫1.8倍)
2.出血性下痢(犬4.2倍、猫3.1倍)
3.中程度~重度のトラブル(犬1.9倍、猫2倍)
・臨床現場で最も重要とされる抗生剤の一群は症例の約2.2%に処方されていた
・臨床現場で最も重要とされる抗生剤の一群は猫でより頻繁に処方されていた
・臨床現場で最も重要とされる抗生剤の一群の処方に関連するファクターは下記の通りである
1.オーナーが獣医師の指示通りに治療を進めること
2.オーナーの期待感(薬を処方してくれる期待)
3.感染症のリスクが意識されたケース
4.症状から抗生剤の必要性を感じたケース
5.近々の病歴から抗生剤の必要性を感じたケース
6.以前の抗生剤療法で治療が成功した症例
7.犬猫が高齢であること
8.安楽死が意識されたケース
9.臨床検査から抗生剤が必要とされたケース
10.消化器トラブルに抗生剤を処方するという獣医師の経験的な行動
・臨床現場で最も重要とされる抗生剤の一群が処方された症例の77%で使用を正当化することはできなかった
上記のことから、犬猫の消化器トラブルに抗生剤が処方されるファクター・条件が存在していることが窺える。しかし、それらを基に処方された抗生剤の一部は正当化できない(不必要であった可能性がある)ことが分かる。よって、今後、オーナーが抗生剤の処方を期待する、あるいは、獣医師が抗生剤の処方について見誤ることに対処する方法について議論され、臨床現場の実情やそこに渦巻く心理状態を考慮したガイドラインが新たに作成されることを期待している。
参考ページ:
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1166114/full