3歳と6ヶ月齢。未去勢オスの雑種犬が便も尿も失禁し、後肢の麻痺を呈した。そして、その症状が1週間続いた頃、とある動物病院で実施された神経学的検査でT3-L3の脊髄に障害が生じていることが判明した。しかし、画像診断(MRI検査)の結果はハッキリとしなかった。椎間板ヘルニアではないようであったが、脊髄を圧迫しているものが判然としなったのである。T12辺りに腫瘤のような、血腫または血管の奇形のような物が確認されたのだ。果たして、彼の身に何が起こっているのだろうか。
背側椎弓切除に硬膜の切開、加えて脊髄の背側を正中で切り開く術式が適応される。そこには、血管の異常を疑う構造物があった。それを摘出し、組織学的検査へと進む。肉眼的所見とは裏腹に、血管壁と思しき組織は認められなかった。また、腫瘤と言える所見と得られなかった。しかし一方で、神経組織の一部とともにフィブリン、出血の痕、ヘマトイジン色素(赤血球の分解産物)が確認された。これらが元凶だと推察できた。
手術の翌日は残念ながら麻痺は残っていたが、2週間とかからずに歩行機能は回復し始めた。そこから12週間に渡って経過は良好で、完全回復と言って良い状態になった。以降12ヶ月、症状の再発はみられなかった。読者の皆様が担当する症例の中に類似したケースはあるだろうか。脊髄に潜む病変がヘルニアとも腫瘤ともつかない得体の知れないものであるならば、本症例と同じ現象が起きているかも知れない。
参考ページ:
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1243882/full