4歳齢、去勢オスのイングリッシュ・ブルドッグが重度の天疱瘡を主訴にオハイオ州立大学を訪れた。プレドニゾン 2mg/kg SID、ミコフェノール酸モフェチル 10mg/kg BID、オクラシチニブ 0.9mg/kg BIDによって治療され完全寛解を得るも、プレドニゾンの減量(20%)をすると全身性に紅斑、びらん、痂疲、潰瘍、膿疱が再発してしまうということであった。その病変は、実に体表面積の約50%を占める程に深刻だった。
入院加療となるも状況は芳しくなく、プレドニンやミコフェノール酸モフェチルの服用では埒が明かなかった。天疱瘡の元凶は自己抗体であることに立ち返る。つまり、自己抗体が無くなれば万事解決なのである。そこで、物理的に抗体を除去する治療法が選択された。血漿交換療法( therapeutic plasma exchange、TPE)だ。シクロスポリン 7mg/kgを併用しつつ、6日間に渡って4回のTPEが実施された。血中の抗体の80%を削減するべく、2~3時間をかけて血漿量の1.5倍に相当する輸液(犬新鮮凍結血漿、ヒドロキシエチルスターチ、生理食塩水)が行われた。幸いにも合併症はなかった。しかも、TPEによる治療中に部分寛解を達成した。紅斑は減少し、痂疲は取れ、潰瘍は治癒経過を辿り、膿疱は消失し、病変が体表面積を占める割合は約25%まで減少した。また、TPE終了後の24時間で新たな病変は確認されず、晴れて退院となった。
退院から1週間後の再診。TPEが行われないこの期間で、症状が悪化した。びらん、痂疲、潰瘍、膿疱が認められた。安楽死が頭を過る。しかし、踏み止まった。それを避けるべく、積極的に治療内容は変更され、レフルノミド 1.6mg/kg SID、デキサメタゾン 0.3 mg/kg BIDに加えて、外用ステロイド剤にて仕切り直しとなった。論文執筆中において、本症例は部分寛解となったという。
上記のことから、TPE、つまり自己抗体を物理的に除去する治療法は、犬の天疱瘡に有効だと考えられる。よって、今後、TPEの間隔と継続期間、TPEに併用する薬剤、TPE適応中のモニタリング方法について研究され、可能な限り医療費を抑えた、且つ、効果が期待できるTPEが確立されることを期待している。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38044720/