脊髄腔に脳脊髄液が異常に貯留する脊髄空洞症を患った犬には、感覚の異常や神経系のトラブルに起因した疼痛が発生することが知られている。その中でも、ファントムスクラッチと呼ばれる「頚部に痒みを感じているような行動」は印象的である。また、一部の神経組織(後角)には、アトピー性皮膚炎の痒みの原因とされるインターロイキン-31(IL-31)の受容体の存在が確認されている。つまり、このIL-31がファントムスクラッチに関与しているという仮説が立てられるのだ。
冒頭のような背景の中、ドイツの大学らは、①臨床上健康な犬、②アトピー性皮膚炎の犬、③脊髄空洞症を発症した犬を対象にして、彼らの血液およびCSFに含まれるIL-31濃度を調べる研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったという。
◆脊髄空洞症に関連した痒みとIL-31 ◆
・①の血清中IL-31濃度(平均)は80.7pg/mLであった
・②では228.3pg/mLであった
・③では150.1 pg/mLであった
・①のCSF中IL-31濃度(平均)は186.2 pg/mLであった
・③では146.3 pg/mLであった
・中耳炎、内耳炎、椎間板ヘルニアを併発している③では血清中およびCSF中のIL-31濃度が高い傾向にあった(有意ではない)
・③に属する犬の痒みや痛みとIL-31濃度に関連性は見出せなかった
上記のことから、脊髄空洞症の犬が取る痒みを感じているような行動にIL-31は関与していないと考えられる。しかし一方で、中耳炎、内耳炎、椎間板ヘルニアを併発した場合は、IL-31濃度が高くなるという事実もある。つまり、これらの疾患が彼らの痒みと関わっていると捉えることもできるのだ。よって、今後、脊髄空洞症の犬が抱える併発疾患と、痒みを感じているような行動との関連性が調べられ、犬の神経科および耳科診療が進化を遂げることに期待している。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37993920/