ヨーロッパにおいて、Angiostrongylus vasorumは、年を経るごとに感染地域を拡大しているとされている住血線虫の一種で、ひとたび犬に感染すると発咳、易疲労性、体重減少、食欲不振、嘔吐、下痢、発作、出血傾向に加えて心不全を齎らし、無治療の症例を死に至らしめる寄生虫として知られている。そのため、同病原体に関する疫学、特に感染リスクがある国・地域を最終の状態にアップデートすることが重要だとされているのだ。
冒頭のような背景の中、ルーマニアの大学および動物病院らは、A. vasorum感染症と診断された犬4例の症例報告を行った。なお、この4例の出身地は地理的に離れているという。また、①1例は生前に、②3例は剖検後に同感染症と確定されており、以下に示す事項が概要だとのことである。
◆ルーマニアで確認された犬のA. vasorum感染症例◆
・①はX線検査で寄生虫性肺炎が疑われた
・またPCR検査でA. vasorum陽性となった
・②では肺の硬化病変(暗赤色)を認めた
・また肺動脈内に成虫が多数寄生していた
・感染に関連すると思われる炎症が脳、気管、気管支、縦隔リンパ節に起こっていた
この報告がなされる前のルーマニアでは、キツネからA. vasorumが検出されることがあり、一般家庭で飼育されている犬でも血清学的には同病原体の感染が確認されていたものの、臨床症状を伴った犬の症例は確認されていなかった。もし「そう」だとするならば、ルーマニア全土にA. vasorumが感染拡大しているということなのかも知れない。よって、これ以上の事態悪化を防ぐべく、感染症対策(媒介動物であるカタツムリやナメクジに近づかない、キツネの生息域に近付かない、彼らが接触した水や草に犬が近づかないようにする、感染した犬を隔離する、駆虫薬ADVOCATE®を使用する)に関する啓蒙が同国内で盛んに行われることに期待したい。
参考ページ:
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1146713/full