マンチカン(去勢オス、7歳齢)が食欲不振を主訴に韓国の動物病院を訪れた。彼には、多発性嚢胞腎に伴う慢性腎臓病と診断された過去があった。食欲不振は「それ」に起因していると考えることが妥当だった。しかし、気になる点が一つ、二つあった。身体検査にて中程度の収縮期雑音が聴取されていたのだ。また、頻脈も認められた。果たして、食欲不振の原因は多発性嚢胞腎か、慢性腎臓か、心臓病か。あるいは、まだ他にあるのか。心エコー図検査で精査が始まった。
冠状静脈洞が拡張していた。加えて、その拡張によって左心房が圧迫されていた。更に、僧帽弁の収縮期前方運動を伴う左室肥大、大動脈弁逆流、僧帽弁逆流も確認された。全ての引き金と思われた冠状静脈洞の拡張は、左前大静脈の存在を元凶に持つことも分かった。本症例にはアテノロールによる内科治療が適応された。すると、左心房の機能は回復し、異常な心臓内の血流も解消したという。
症例を発表した韓国の大学および動物病院らによると、多発性嚢胞腎(常染色体優性遺伝)を抱えるヒトでは、先天性心疾患が起きるリスクが高くなるとのことだ。これは、PKD1 または PKD2 遺伝子によってコードされるポリシスチンというタンパク質が心臓の発達と機能維持においても重要な役割を果たしている可能性があることを示唆しているという。また、本症例は左前大静脈という心血管異常を伴った多発性嚢胞腎の猫として、世界初の報告だ。よって、今後、多発性嚢胞腎の猫を対象にして心血管異常の有病率を調べる研究が進み、その治療法について議論されることを期待している。
参考ページ:
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1268493/full