生後9ヶ月、オスのミニチュア・ダックスフンドが突然にして四肢麻痺になったということで、オーストラリアの救急外来を訪れた。何でも、グルーミングの後に症状が発現したらしい。歩行困難、頭の傾き、左眼の外側面斜視。精神状態は正常なものの、身体検査・神経学的検査から得られた異常所見は、前庭または頚髄のトラブルを示唆していた。MRI検査へと進む。環軸椎の亜脱臼に伴う頚髄(C1〜C2)の圧迫。それが原因であった。『ならば外科手術で対応できる』。そう思われた矢先、問題が発生した。治療に際して彼の体に貼られていたテープを剥がした時に、皮膚が裂けたのだ。果たして、この症例に一体何が起きたのだろうか。
皮膚にかかる、あらゆる外的な力を全て比較することできるのであれば、テープを剥がす行為はどれ程の力となるだろう。比較的弱い、あるいは、大きく見積もって中程度の力であろうか。その力で裂けてしまった。彼の皮膚の脆弱性は病的と言って過言ではない。ならば、病名は。全層に渡る皮膚の病理組織検査の結果は、エーラス・ダンロス症候群だった。
今回の報告を上げた動物病院らは、環椎と軸椎が構成する関節・靭帯にもコラーゲンが深く関与していることを踏まえて、彼(ダックスフンド)をエーラス・ダンロス症候群に関連して環軸椎の亜脱臼が発生した初めての症例と位置付けた。よって、今後、エーラス・ダンロス症候群の犬における環軸椎亜脱臼のリスクを文書化・数値化する研究が進み、「そういった事情」を抱える個体のハンドリング、グルーミング、トリミングについて議論されてることを期待している。
参考ページ:
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1234995/full