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動脈血栓塞栓症によって麻痺が起きた後肢の血流を画像診断で確認した猫の1例

投稿者:武井 昭紘

12歳齢、去勢オスの猫が、苦しそうな呼吸と急性に起きた後肢の麻痺を主訴に韓国の動物病院を訪れた。身体検査では両後肢の脈拍は触知されず、胸部X線検査では心原性肺水腫が認められた。また、心エコー図検査にて肥大型心筋症が明らかになり、左心房には「もやもやエコー」が出現していた。つまり、疑わしい疾患は、動脈血栓塞栓症であった。果たして、後肢の麻痺は回復の見込みがあるのか。そこに、治療の焦点が絞られた。

 

酸素吸入、利尿薬、抗血栓療法を行うも期待する効果は得られなかった。加えて、ASTとCPKは著増し、好中球の数は左方移動を伴って減少した。後肢の筋肉が壊死を起こし、敗血症へと移行している。後肢の切断に迫られた厳しい現実が目の前にあった。

切断部位の検討にあたり、本症例では陽電子放射断層撮影(positron emission tomography、PET)が実施された。後肢における18F-フルオロデオキシグルコース(18F-FDG)の取り込みを確認して、生きている組織と血流が途絶え死にゆく組織の区別が図られたのだ。結果は、後肢のみならず泌尿器系にも及ぶ深刻な虚血。全てを切除すれば、生活の質が著しく低下することは想像に難くなかった。オーナーの希望で安楽死となった。

 

血栓症によって虚血が生じた組織の状況を知ることは、治療方針の決定に大きな影響を与える。本症例では、その役目をPETが担った。誰かの愛猫を突如として襲うかも知れない後肢の麻痺。切断の必要性を把握し、手術あるいは安楽死の決断を獣医師とオーナーが共に考える上で、PETは有用な、そして客観的な手段なのかも知れない。

剖検にて左側大腿部の筋肉と右側の腓腹筋に萎縮が確認できたとのことです。

 

参考ページ:

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1223866/full


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