犬が発症する原因不明の髄膜脳炎(meningoencephalitis of unknown origin、MUO)に対する治療法には様々な選択肢があり、免疫機能を調整する目的の放射線療法もその一つに挙げられる。しかし、同療法の標準的なプロトコルに関する情報は乏しいのが現状である。そのため、研究を重ね、有効でありつつ副作用を最少限に抑えたX線量の設定をすることが必要となっている。
冒頭のような背景の中、チューリッヒ大学は、MRI検査および脳脊髄液検査によってMUOと診断された犬10匹(7例は初めてMUOと診断された個体、3例は再発した個体)を対象にして、脳組織に放射線を当てる研究を行った。なお、同研究における線量は4Gyで、照射回数は5回、計20Gyであったとのことである。また、全て症例にはプレドニゾロン療法が併用されている。すると、以下に示す事項が明らかになったという。
◆MUOを発症した犬に対する放射線療法の効果◆
・全例の神経症状が改善した
・そのうち4例は放射線療法から間もなく回復した
・放射線療法を始めてから3ヶ月以内に3例が死亡した
・放射線療法から3ヶ月の頃まで追跡できた症例のうち、2例でMRI所見が完全に消失、5例で部分的に消失、1例で悪化した
・放射線療法から3ヶ月を経過して生存している症例のうち2例にプレドニゾロン、5例に免疫抑制剤が投与された
・最終的に4例の病状が進行した(進行するまでの期間は平均691日)
・全例から算出した生存期間は平均723日(436~1011日)であった
・放射線療法の副作用は確認できなかった
上記のことから、放射線療法は、神経症状を改善する効果を有していることが窺える。よって、今後、残念ながら結果的に病状が進行してしまった症例、MRIの病変が部分的な消失に留まった症例に適した線量について議論され、可能な限り多くの症例のMUOを快方に向かわせる放射線療法が確立されることに期待している。

病理組織検査が実施された4例のうち、3例はMUO、1例は乏突起膠腫(oligodendroglioma)だったとのことです。
参考ページ:
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1132736/full