細胞や組織の発生・分化を調整する転写因子の一つであるGATA-3は、乳腺の発達に深く関与していると言われている。また、同因子がヒトの乳腺組織(乳腺腫瘍)に発現していると、予後が良好になることも知られているのだ。では、犬ではどうなのだろうか。ヒトの乳腺腫瘍のモデル動物とも称される犬でもGATA-3は何らかの役割を担っているのだろうか。
冒頭のような背景の中、フィンランドおよびブラジルの大学らは乳腺腫瘍を抱えるメス犬40匹を対象にして、彼女らのステージと生存率を評価するとともに、彼女らから切除された乳腺腫瘍を病理組織学的に分類する研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったという。
◆乳腺腫瘍を抱えた犬の予後を判定するマーカーGATA-3の有用性◆
・GATA-3(①)の発現は悪性の乳腺腫瘍(Ki-67の発現レベルが高い)よりも良性や高分化型の乳腺腫瘍で高かった
・エストロゲン受容体(②)の発現も①の発現状況と同等であった
・①と②の発現レベルは正の相関関係にあった
・①とKi-67の発現レベルは負の相関関係にあった
・①の発現レベルと生存期間は正の相関関係にあった
・腫瘍細胞の79.4%以上に①が発現している症例の生存率が有意に高かった
上記のことから、①は乳腺腫瘍を抱えた犬の予後を判定するマーカーになり得ることが窺える。よって今後、①が商業化され、乳腺腫瘍の犬の治療方針に活用されていくことを期待している。
参考ページ:
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1179808/full