T細胞に抗原を認識させて腫瘍細胞を攻撃するワクチンには、ある課題が残されている。同ワクチンに採用され、腫瘍細胞に発現している抗原は、正常な細胞にも存在しているのである。そのため、正常な細胞もワクチンの影響を受けてしまい、「期待される効果」の恩恵を充分に受けられないことがあるのだ。では如何にして、この課題を克服するか。至極シンプルに考えるならば、腫瘍細胞にだけ発現している抗原でワクチンを作製することが解決の糸口になると言えるである。
冒頭のような背景の中、世界的な科学誌Scienceは、ネオアンチゲンと呼ばれる抗原(タンパク質)を利用したワクチンを有望視する記事をオンライン上にアップした。それによると、黒色腫を発症した患者(ヒト)のT細胞を同ワクチンが刺激し、腫瘍細胞の増殖を抑える可能性が示されたという。具体的には、ワクチンを投与され患者の死亡率や再発率が40%以上低下したとのことだ。
黒色腫は犬にも猫にも発生する。加えて、三者(ヒト、犬、猫)とも転移をしてしまえば、外科的な完全切除が望めない状況に陥ることとなる。ネオアンチゲンのワクチンは、前述した既存の癌ワクチンの課題も、そして転移病巣に対する治療の難しさも解決してくれる希望の光だといって過言ではないだろう。よって、今後、同ワクチンの開発がスムーズに進み、人医療ひいては獣医療に広く普及していくことを願っている。
参考ページ:
https://www.science.org/content/article/personalized-vaccine-melanoma-may-stave-cancer-s-return