間歇的な血尿が続くミニチュア・シュナウザー系統の交雑種がアメリカの動物病院を訪れた。彼は、1歳齢の未去勢オス。年齢からでは余り考えられないかも知れないが、性別を考慮すると前立腺疾患も鑑別リストに入る状況であった。腹部超音波検査が行われる。前立腺の頭背側に液体で満たされた嚢胞が確認された。果たして、彼は、前立腺嚢胞を含めた前立腺のトラブルを抱えているのだろうか。
精査のため、CT検査が行われた。嚢胞は子宮に似ていた。メスで言う所の子宮角と思われる部位が鼠経管を通り、陰嚢に進入していることも判明した。更に、遺伝子検査へ進む。メスの生殖器である卵管や子宮の発達を抑える抗ミュラー管ホルモン受容体2型(AMHRII)遺伝子に変異が検出された。彼に、去勢手術と言うべきか、不妊手術と言うべきか、性腺摘出術が適応された。執刀医の眼で見ても、また、組織学的検査においても、子宮、卵管、膣、精巣の存在が認められた。嚢胞を介して子宮と膀胱が繋がっていること。そして、感染症を患っていること。それが、血尿の原因だった。病名としては、ミュラー管遺残症候群(persistent Müllerian duct syndrome、PMDS)と言えるという。
症例報告を行ったアメリカの大学らは、本症例を世界初と位置付ける。前立腺の構造異常をともなったPMDSに尿路感染症が併発した症例は初めてだと。よって、謎の血尿を呈する未去勢オスに遭遇した場合は、画像診断の結果に応じて遺伝子検査や摘出した生殖器の組織学的検査を検討することをお薦めする。

嚢胞は前立腺の構造の一部と判定されました。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37470070/