術後数時間から数日以内に発生する出血(Delayed postoperative hemorrhage、DEPOH)は、文字通り手術後暫くして、重度の出血や紫斑を起こす現象として知られており、線維素の溶解が更新して血餅が早期に消失してしまうことが原因とされている。また、このDEPOHは、ゴールデンレトリバー、ボーダーコリー、イタリアングレーハウンド、サルーキーなどの一部の犬種で遺伝子変異が発見されているのだ。そのため、同現象が起きるリスクを抱えている犬種を特定し、術後管理を徹底することが獣医学の課題となっているのである。
冒頭のような背景の中、ワシントン州立大学は、スコットランド原産の大型犬で、且つ、イタリアングレーハウンドやサルーキーと同様にサイトハウンドに属するスコティッシュ・ディアハウンド260匹以上を対象にして、彼らの遺伝子を解析する研究を行った。すると、DEPOHに関与すると疑われる40の候補遺伝子の中から、9番染色体に位置するα-2 アンチプラスミンをコードするSERPINF2遺伝子、いわば「DEPOH遺伝子」の変異を特定することに成功したとのことである。また、この遺伝子変異がヘテロの場合は28倍、ホモの場合は実に1235倍、DEPOHが生じやすくなることが判明したという。
上記のことから、SERPINF2遺伝子の変異がスコティッシュ・ディアハウンドのDEPOHに深く関与していることが窺える。よって、今後、本研究で確認された変異を検出する遺伝子検査が商業化され、DEPOHのリスクを抱えた個体の術後管理が、万端な術前準備を伴って徹底されていくことに期待している。
参考ページ:
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.16643