突如として下血を起こす犬の急性出血性下痢症候群(acute hemorrhagic diarrhea syndrome、AHDS)は、例え入院中であったとしても細菌感染を生じて、最終的に敗血症に至るリスクを孕んでいる消化器疾患である。一方、話は変わるが、 C反応性タンパク質(C-reactive protein、CRP)は優れた犬の炎症マーカーであり、且つ、敗血症例でも上昇することが知られている。つまり、状態の悪い(重症度が高い)AHDSの犬、言い換えると、敗血症に陥って抗生剤療法を必要とするAHDSの犬を判別することにCRPが利用できると考えられるのだ。
冒頭のような背景の中、欧州の大学らは、AHDSと診断された犬27匹の診療記録を解析する研究を行った。なお、同研究では、入院当初4日間に渡ってCRPが測定されており、同日に出血性下痢の重症度も数値化されている。すると、以下に示す事項が明らかになったという。
◆AHDSを発症した犬の経過とCRPの変動◆
・約93%の症例が無事に退院している
・76%の症例が抗生剤療法を受けた(敗血症と判断されて、または、好中球減少症のために)
・入院初日のCRPは軽度に上昇していた(中央値2.73mg/dL、0.1~12.58mg/dL)
・入院翌日のCRPは著しく上昇した(中央値8.89mg/dL、0.14~19.27mg/dL)
・その後のCRPは徐々に減少した
・CRPはALB、WBC、好中球数、重症度と相関していた
・しかし抗生剤療法との関連は認められなかった
上記のことから、CRPはAHDSの犬の病状を把握するマーカーとして有用だと言えるが、その症例に対する抗生剤療法の必要性を判断する指標にはならないことが窺える。よって、今後、CRPと組み合わせてAHDS症例に対する抗生剤療法の是非を判定するマーカーが開発され、100%の症例が退院できる未来が訪れることを期待している。

重症度の評価に用いられた指数およびスコアは、canine hemorrhagic diarrhea severity (CHDS) indexとAPPLEスコアとのことです。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36713872/