生命機能を維持する中枢神経系の器官が収まる頭部の外傷は、時に致命的となってしまう。そのため、頭部外傷の疫学を把握することは重要で、その情報に基づいて検査、診断、治療をスムーズに進めることが望ましいと考えられるのだ。
冒頭のような背景の中、カリフォルニア大学は、頭部・顔面・顎に外傷を負った子犬90匹以上(13年分)の診療記録を解析する研究を行った。なお、同研究では、外傷を負った理由(原因)、CT検査から得られる外傷や骨折の位置と骨折片の状況などに着目しており、以下に示す事項が明らかになったという。
◆子犬の頭部外傷に関する疫学◆
・70%以上の症例の原因は何らかの動物による咬傷であった
・骨折する可能性の高い骨は上顎骨であった
・次いで下顎骨(臼歯付近)であった
・1匹が抱える骨折部位は平均して8.8個であった(最大37ヶ所)
・吻側の下顎に外傷を負った場合、顎関節における骨折が発生しやすかった
・半数以上の症例で顎骨の固定が行われた
・約48%の症例で軟部組織の手術、約28%で抜歯が実施されている
・約72%の症例で合併症が起きた
・その合併症で最多のものは不正咬合であった(約55%)
・1匹が抱える合併症は平均して2.4個であった
・治療法と治癒経過に有意な関連性はなかった
・骨折片の存在とその変位(重症度)は治癒経過に悪い影響を与えていた
上記のことから、子犬の頭部外傷では咬傷事故が多く、大部分の症例に合併症が起きることが分かる。また、骨折の有無と現状の確認は、治癒経過を示唆していることが窺える。よって、今後、咬傷事故を減らすための注意点を啓蒙するイベントの開催、および、CT検査の推奨と合併症(特に不正咬合)への対応を盛り込んだガイドラインの作成が進み、後遺症(合併症)に苦しむ子犬が1匹でも少なる未来が訪れることに期待している。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36090162/