アメリカで飼育されている猫の4匹に1匹以上、実に5800万匹が糖尿病だと推計されており、ある調査によると、新たに当該疾患と診断された猫の10匹に1匹が安楽死されているという。また、別の調査によれば、糖尿病と診断された猫が1年以内に安楽死される確率は10%だとのことだ。敢えて強調した表現を遣うが、何故、彼らは処分されてしまうのか。そこには、治療と経過観察の難しさがあると言われている。毎日続く1日2回のインスリンの注射に加えて、油断ができない血糖値のモニタリング。そして、月に100~150ドルほどの医療費。オーナーたちの時間も資産も飛ぶようになくなっていくのだ。
『ならば安楽死を』。
そう考えるのも無理はないのかも知れない。
冒頭のような背景の中、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)は昨年12月、世界的な医薬品メーカーElanco社がリリースする新しい糖尿病治療薬Bexacat™を承認した。なお、同薬はベキサグリフロジンを主成分としており、インスリンとは異なる作用機序、すなわちナトリウム/グルコース共輸送体2(sodium-glucose cotransporter 2、SGLT2)を阻害して尿中へのグルコースの排出を促進することで血糖値をコントロールする効果を有している。また、1日1回の経口投与、針にもインスリンにも依存しないこと、医療費は50ドル程度で済むこと、更に、300匹以上の罹患猫にBexacat™を投与した研究で投与開始56日目までに83%の症例の血糖値や少なくとも1つの臨床症状が改善が見られたことが利点だという。
正に良いこと尽くめといった状況だが、無論、デメリット(残念な点)もある。それは、インスリンの治療を開始した症例に同薬が使えないことであり、例え血糖値が参照値内に収まったとしてもケトアシドーシスのリスクが拭えないことである。おそらく、いや、きっとBexacat™は猫の糖尿病治療に革新を齎す。そのために、これらのデメリットをどう克服するのか。今後の動向に注視したい。そして、Bexacat™の適正な使用方法がガイドライン化されることに期待している。
参考ページ:
https://www.elanco.com/en-us/news/elanco-announces-fda-approval-of-bexacat