ステロイドの投与で3倍、機械的な要因(異物、胃拡張・捻転)で約5倍、NSAIDの投与で約6倍、腫瘍で約14倍。これらのファクターを抱えた犬は胃や腸に潰瘍を起こしやすいと報告されている。では、猫では一体どうなっているのだろうか。犬と同様なのだろうか。それとも。その謎を解明することは、猫の消化器診療を進化させるキッカケになるものと思われる。
そこで、イタリアの動物病院らは、内視鏡検査を実施している獣医師5名が診察した、過去5年間(2016年~2020年)の猫の診療記録を解析する研究を行った。すると、60件以上のデータが集積され、以下に示す事項が明らかになったという。
◆胃や十二指腸に潰瘍を抱える猫の疫学◆
・年齢の中央値は9歳であった(2~16歳齢)
・最も一般的な症状は嘔吐であった(90%の症例)
・次いで低酸素状態(66%)、吐血(20%)が続いた
・潰瘍は幽門部に多く認められた(症例の56%)
・次いで胃体(46%)、胃底(21%)、十二指腸(13%)に潰瘍を認めた
・潰瘍が1箇所であった症例が69%、複数箇所であった症例が31%であった
・症例の54%は良性の潰瘍であった
・症例の約40%でハイグレードのリンパ腫、2%でローグレードのリンパ腫、4%で癌腫が確認された
・ハイグレードのリンパ腫は胃のみに発生した
・良性病変の猫よりも悪性病変の猫の方が有意に高齢であった
上記のことから、半数の症例、そして、若齢の猫の潰瘍は良性病変であり、高齢の猫に悪性病変が多いことが分かる。よって、嘔吐を呈する猫の診察では彼らの年齢を意識し、高齢の場合では内視鏡検査を必ず選択肢に盛り込むことが望ましいと思われる。また、今後、嘔吐をする若齢の猫において内視鏡検査を検討するべき条件を明らかにする研究が進み、悪性の潰瘍病変を見逃さない消化器診療が確立されることに期待している。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35848606/