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多発性神経障害を発症した猫の臨床検査所見と経過に関する統計学的解析

投稿者:武井 昭紘

猫の多発性神経障害(polyneuropathy、PN)は、遺伝性あるいは後天性、そして代謝性、血管性、中毒性、腫瘍随伴性、感染性、栄養性、免疫介在性、特発性など様々な原因(一部は原因不明)に分類される神経系疾患である。しかし、若齢の猫が発症するPNに関する情報は乏しく、臨床検査所見や経過は未だ不明な点が多いのが現状である。

 

そこで、ヨーロッパの獣医科大学らは、欧州諸国から神経組織に炎症性浸潤を認める猫70匹の診療記録を集積し、そのデータを解析する研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったという。

◆多発性神経障害を発症した猫の臨床検査所見と経過◆
・発症年齢の中央値は10ヶ月齢であった(最年少は4ヶ月齢、最年長は10歳齢)
・症例の25%をブリティッシュショートヘアが占めていた(最も一般的)
・次いでドメスティックショートヘア、ベンガル、メインクーン、ペルシャが続いた
・約99%の症例に筋力の低下、約84%に引っ込め反射の低下、約76%に四肢の麻痺が認められた
・稀に(母集団の10%台に)脳神経系トラブルに伴う症状、背部痛・知覚過敏、排尿・排便トラブルが認められた
・約69%の症例では飼い主さんが気が付かないうちに病状が進行していた(約30%は突発性であった)
・電気生理学的検査では約90%の症例に自発的な筋肉の活動、約52%に運動神経の伝導速度の低下、約72%に異常なF波が検出された
・約49%の症例が寛解し、約35%は寛解と再発を繰り返した
・「突発性に発症すること」は、その後の良好な経過と関連していた

 

上記のことから、列挙した特定の猫種を飼育する世帯では、子猫の時より行動観察を注意深くすることが望ましいと考えられる。また、該当する臨床兆候が認められる猫を診察する際は、冒頭に記した原因を鑑別していくことが重要だと言える。読者の皆様の中に、心当たりのある猫を飼い、あるいは、診察をしている方はおられるだろうか。もしも、おられるならば、電気生理学的検査を実施し、PNの可能性を探って頂けると幸いである。

記載した猫種以外にも10を超える品種が特定されておりますので、リンク先の論文をご参照ください。

 

参考ページ:

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2022.875657/full


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