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慢性下痢を抱える6歳齢のラブラドールに糞便移植を適応した研究

投稿者:武井 昭紘

消化器疾患を抱える犬に対する治療法の一つとして、糞便移植(fecal microbiota transplantation、FMT)が注目されている。この手技には、他者(他の犬)の腸内細菌叢を借りる形で罹患犬の腸内環境を整え、副作用を伴う場合がある薬物療法のリスクを軽減し、なお且つ、経過を良好にすることが期待されているのだ。では実際のところ、その期待を実現できた症例は存在しているのだろうか。小動物臨床における糞便移植の実状を把握し、同療法を普及するキッカケを模索し、あるいは、同療法の課題点を洗い出すことが重要だと思われる。

冒頭のような背景の中、イタリアの獣医科大学らは、慢性的な下痢の再発に苦しんでいるラブラドール・レトリバーにFMTを適応する研究を行った。なお、同研究では、移植サンプルをカプセル状にして経口的に罹患犬に投与している。すると、治療開始から21日目にして、炎症性腸疾患の重症度を示すCIBDAIのスコアが改善し、また、腹部の膨満感および排便痛も軽減されたという。加えて、同症例は治療開始から18ヶ月後(追跡期間としては最長)まで再発を起こさず、プレドニゾロンの増量も回避できたとのことである。

上記のことから、FMTは犬の慢性下痢に有効だと考えられる。よって、今後、移植に適したドナーの腸内細菌叢、移植サンプルの生成方法、カプセル化の手順、投与方法などを記載したガイドラインが作られ、FMTが慢性下痢を抱える多くの犬を救う未来が訪れることに期待している。

追跡期間の中では、有害事象が確認されなかったとのことです。

 

参考ページ:

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2022.893342/full


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