ドイツ原産の大型犬ボクサー(4歳の去勢オス)が、アメリカのテキサスA&M大学を訪れた。不整脈と拡張型心筋症を認め、うっ血性の左心不全と診断された。そして、診断直後、残念ながら本症例は突然死となった。彼の身に一体何が起きていたのだろうか。ボクサーの拡張型心筋症。それだけで説明がつくものだろうか。
病理検査にて、組織球・リンパ球・形質細胞を伴った壊死性の汎心炎が確認された。無論、うっ血性の左心不全の裏付けも取れた。加えて、抗体検査にて、Trypanosoma cruzi陽性。しかし、無鞭毛型は検出されず、シャーガス病と断定はできなかった。一方、心臓に限定して、もう一つの所見がみられた。プロトテカ属の藻類が「そこ」に存在していたのだ。
『心臓のみに限局したプロトテカ症は初めての報告である。』
大学は、このように述べる。犬のプロトテカ症は、通常、消化器・眼・神経の症状を主体にして、全身の臓器へと播種する。本症例は、非常に珍しいと言えるだろう。果たして、拡張型心筋症を患った犬のうち、診断は難しく確固たる有効な治療法も無いプロトテカ症を発症した症例は他にも居るのだろうか。今後、有病率を算出する研究が進み、犬の拡張型心筋症をより深く理解する契機が訪れることを期待している。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35349851/