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<コラム>「糖質制限」判例によるペット治療を考える

投稿者:AsaT

近年「ケトン体ダイエット」という言葉を聞くことが多くなりました。糖質を制限してケトン体を増やし、エネルギー源としてケトン体を使うことで痩せる効果が期待できるというものです。

体内のグルコースが減ると、血糖値を維持するために肝臓に蓄えられているグリコーゲンがグルコースに分解されて利用されます。しかし、グリコーゲンは18〜24時間ほどで枯渇してしまうため、グルコースが枯渇した後は筋肉や脂肪細胞に蓄えている脂肪酸がエネルギーとして使われます。ケトン体は、脂肪酸から作られており、ケトン体ダイエットは効率的に脂肪を減らすことができると言われています。

ケトン体ダイエットの食事法では脂質を多く、糖質を少なく摂取(高脂質・高タンパク・低糖質)していきます。摂取が制限されるのは、米・パン・パスタ、芋類、菓子類、清涼飲料水、砂糖・フルーツなど糖分を多く含む食品。

食べたものをすぐにエネルギー化してくれる消費型のカラダになり、体質改善に効果があるとされますが、副作用が生じたり、体に不安がある方は実施しないほうが良い場合もあるため、医師の指導のもと行うことが大切です。

このケトン体の効用が、ペットの糖質制限にも用いられるようになってきました。しかし、ペットが死亡する判例も出ています。2004年5月10日の東京地方裁判所での判例では、犬の糖尿病治療で、獣医師がインシュリンの投与を怠った過失があると判断されています。

当該のスピッツ犬は検査の結果、高血糖、尿糖、ケトン体が確認され入院して食事療法と輸液療法を実施し経口血糖硬化剤(スルホニル尿素剤)を受けていました。しかし、症状が悪化するばかりで、オーナーが他の動物病院に転院させてインスリンを投与させたのですが、時遅く死亡してしまいました。

判例では、過糖尿病・糖尿病性ケトアシドーシスの当該犬に細かな治療がなされていなかったこと、糖尿病に対する食事療法や運動療法を行うほか犬の状態を監視しながら輸液療法及びインスリン療法を行い、重炭酸塩療法の実施を検討すべきであったと認めたうえで、その時行われた経口血糖硬化剤(スルホニル尿素剤)の投与は、犬の糖尿病治療としては適切であったとはいえず、獣医師の注意義務違反(過失)とされたのです。その結果、損害賠償責任が課せられました。

ケトアドーシスは生理的ケトーシスと違い、糖尿病においてインスリンシステムが崩壊して起こり、ケトン体濃度が起こることです。体液が酸性に傾き、下痢などで体外に出てケトアシドーシス状態から、立てなくなったり意識の混濁が起こり、糖尿病を悪化させて死に至ります。対策として、アルカリ性の物質の輸滴、重曹の入った輸滴が必要です。糖類の輸滴、ブドウ糖やキシリトールの輸滴も併せて行います。

正確な診断と処置がペットの命を守る獣医師の仕事です。また、場合によっては同僚医師との協議も必要かもしれません。オーナーからの信頼も、正確な診断と処置の積み重ねにあります。裁判での判例を、自らを磨く他山の石としましょう。


参照URL

https://www.kanro.co.jp/sweeten/detail/id=1975

<「Sweeten the Future」はカンロ株式会社>

https://bit.ly/3us6zh7

<「GRØN」HPより>

<コラム>判例によるペット治療を考える (写真と記事は関係ありません photoAC)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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