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クッシング症候群の犬における細菌尿・膀胱炎の有病率とその特徴

投稿者:武井 昭紘

クッシング症候群の犬は、副腎の皮質から過剰に分泌される内因性ステロイド(コルチゾール)の影響で、また糖尿病を発症することにより、易感染性の状態に陥り、細菌性膀胱炎(sporadic bacterial cystitis、SBC)を発症することがある。しかし、近年では、尿中に細菌が居ることをもってSBCと判断することは尚早で、膀胱炎症状が認められない場合は無症候性細菌尿(subclinical bacteriuria、SB)として扱い、抗生剤療法を適応しないことが望ましいと言われている。つまり、クッシング症候群に罹患した症例では、SBCとSBを鑑別する必要があるのだ。

 

そのような背景の中、ブラジルのリオ・グランデ・ド・スル連邦大学は、クッシング症候群の犬80匹以上を対象にして、SBCとSBの有病率を算出し、尿検査の結果および抗生剤療法の有無に関するデータとともに分析する研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったという。

◆SBCまたはSBを伴うクッシング症候群の犬に関する疫学◆
・尿中に細菌が出現する現象は、尿比重の低下とリンパ球数の減少と相関している
・クッシング症候群の制御レベルは、白血球尿症と相関している
・尿培養検査が陽性となった症例の大部分はSBである(有病率約12%)
・SBCと診断された症例(有病率4%)は全て、クッシング症候群がコントロール出来ている症例であった
・SBCおよびSBを呈した症例は、感受性試験に基づいて抗生剤療法を受けていた
・その75%の尿からは細菌が検出されなくなった
・SBを呈した症例でのみ、尿から持続的に細菌が検出された
・その全てにおいて、大腸菌の薬剤耐性がより強まっていた

 

上記のことから、クッシング症候群の犬ではSBCよりもSBを併発する症例が多く、その症例に抗生剤を投与すると、細菌がより強力な耐性を獲得することが分かる。詰まるところ、冒頭で記したように、「SBには抗生剤療法を適応するべきではない」という結論に至る研究結果が得られたのだ。よって、今回紹介した研究を参考にして、読者の皆様にはSBを呈した症例への対応を再考して欲しいと、筆者は考える。細菌尿ではあるが臨床症状は無い犬に抗生剤を投与するべきか否か。医療でも動物医療でも薬剤耐性菌の出現が問題となっている現在、ここに明確な答えを出して、診療業務に取り組むことが望ましいと思う。

「クッシング症候群の犬に起きる細菌尿と臨床症状について調べた研究」という記事も参考して頂けますと幸いです。

 

参考ページ:

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33609989/


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