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犬の肛門嚢に起きるトラブルに関する疫学を明らかにした研究

投稿者:武井 昭紘

一次診療施設で勤務していると、肛門嚢にトラブル(非腫瘍性のトラブル、non-neoplastic anal sac disorders、ASD)を抱えた犬を診察する機会が多いことに気が付く。つまり、ASDは、ごく一般的な「疾患」と言えるのだ。しかし、当該疾患に関する疫学を調べた研究となると、非常に乏しいのが現状である。果たして、どのような個体が、あるいは犬種が、ASDを発症しやすのか。それを明らかにすることは、トラブルに悩まされる犬を救うために、重要なことであると思われる。

 

そこで、王立獣医科大学(RoyalVeterinary College、RVC)は、大規模症例データベースに登録された10万匹以上の犬を対象にして、ASDの疫学を調べる研究を行った。すると、以下に示す事項が判明したとのことである。

◆犬のASDに関する疫学◆
・約2.2%の症例にASDが起きている
・交雑種に比べて、キャバリアなど6品種において発症リスクが高かった
・交雑種に比べて、ラブラドール・レトリバーなど6品種において発症リスクが低かった
・長頭種に比べて、短頭種は約2.6倍、ASDを発症しやすい
・他犬種に比べて、スパニエル種は約2倍、ASDを発症しやすい
・他犬種に比べて、プードルのグループは約1.5倍、ASDを発症しやすい
・他犬種に比べて、ダックスフントのグループは約1.4倍、ASDを発症しやすい
・高齢になるとASDを発症しやすくなる
・ペット保険に加入した犬は、加入していない犬に比べて約1.5倍、ASDを発症しやすい
・症例の20%に抗生剤、12%に鎮痛薬が処方されていた
・外科手術を受けた症例は1%に満たない
・約8%の症例にフードの変更、約1%にダイエットの指示が出されていた

 

上記のことから、特定の品種や高齢の個体において、ASDの発症リスクが高いことが窺える。よって、該当する犬を診察する際は、ASDを疑う症状の有無を問診にてチェックすることが望ましいと思われる。また、今回紹介した疫学を基に、ASD症例に対する抗生剤処方の是非が議論され、耐性菌が出現しない(抗生剤の)適正使用が実現していくことを願っている。

発症リスクの低い、そして、高い品種の詳細は、リンク先にて確認して頂けますと幸いです。

 

参考ページ:

https://www.rvc.ac.uk/vetcompass/news/ground-breaking-rvc-research-explores-prevalence-of-anal-sac-disorders-in-dogs


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