猫の肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy、HCM)は、遺伝性・続発性に発症し、無症状の時期から呼吸器症状、後肢不全麻痺(血栓症)、失神などを認める病態を経て、あるいは、突然死という致死的経過を辿ることもある心疾患である。そのため、内科治療(ACE阻害薬、カルシウムチャネル拮抗薬など)によって病態の進行を遅らせることが重要だとされている。しかし、病態が悪化するタイミングの詳細は分かっておらず、何に注目してモニタリングをするべきか統一した見解がないのが現状である。
そのような背景の中、王立獣医科大学は、顕著な症状が現れていない、いわゆるpreclinicalなHCMを抱える猫45匹以上を対象にして、病態が悪化する時の変化を突き止める研究を行った。なお、本研究では、うっ血性心不全(congestive heart failure、CHF)、動脈血栓塞栓症(arterial thromboembolism、ATE)、突然死(sudden death、SD)を「病態の悪化を示すイベント」と見なしており、これらの発生と臨床検査所見(1100日以上の追跡)の関連性が検証されている。すると、約32%の症例に、少なくとも1つのイベントが発生し、そのイベントは、①左心房の拡大、②NTproBNPの上昇と関連していることが判明したという。
上記のことから、①または②を認めるHCMの猫は、病態が進行しやすいことが窺える。よって、該当する症例を診察する際は、オーナーに「病態の悪化を示すイベント」に関するインフォームド・コンセントを実施することが望ましいと思われる。そして、そのインフォームド・コンセントが、救急対応を必要とする罹患猫の命を救い、あるいは、QOLを早期に向上させるキッカケになることを願っている。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32696726/