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原因不明の腹水と血栓症を呈したハンガリアン・ビズラの症例報告

投稿者:武井 昭紘

本稿をご覧になっている動物病院に勤務している獣医師の皆様に伺いたい。仮に、腹水を呈した犬の診察を担当し、彼の心室腔内に血栓を発見し場合、どんな鑑別リストを作成するだろうか—–?

 

ガン・ドッグ(狩猟犬)として作出されたハンガリー原産の品種ハンガリアン・ビズラが、ロンドンの南西に位置するハンプシャーに拠点を置く動物病院を訪れた。当初の診察の結果は、右心室内腔の血栓を伴う「原因不明」の腹水症。抗血小板薬クロピドグレルの投与を適応した入院加療によって、退院に至るまで回復したとのことである。そして、本症例では、あらゆる原因が除外されていき、最終的に残った病的現象は、血漿中に含まれるプロテインCの活性(4週間の間を置き2回測定)が顕著に低下していることだったという。

これを受け、同院は、原因不明の腹水症を罹患したハンガリアン・ビズラに、先天性プロテインC欠乏症が起きていたと結論付けた。

 

先天性プロテインC欠乏症は、抗凝固因子として働くプロテインCの欠乏によって、ヒトに血栓症を生じさせる。しかし、犬では報告されていない疾患である。今、読者の皆様が受け持っている症例の中に、原因不明の腹水症に苦しむ犬は居るだろうか。その子は、体の何処かに血栓を抱えていないだろうか。「原因不明」に悩む日々が続いているのならば、一度、先天性プロテインC欠乏症の可能性について検討してみると、前途に光明を見出せるかも知れない。

本症例は、リバーロキサバンの投与によって、良好な経過を辿っているとのことです。

 

参考ページ:

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32277743

https://www.jsth.org/publications/pdf/jstage/12_2.149.2001.pdf(先天性プロテインC欠乏症について)


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