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犬と猫の卵巣子宮摘出術における術前・術中・術後管理の実態を調査した研究

投稿者:武井 昭紘

大部分の一次診療施設で頻繁に実施されており、新人獣医師が基本的な麻酔管理・外科手技を習得する登竜門の一つになっている診療と言えば、犬または猫の卵巣子宮全摘出術(無論、精巣摘出術も)である。それが故か、卵巣子宮全摘出術に用いられる麻酔プロトコールおよび術式の実例は、成書に記載されている「お手本」よりも遥かに千差万別で、実に多岐に渡っている印象を受ける。そこで、国単位の大規模とはなるが、後学のために、他院の卵巣子宮全摘出術の実態について紹介したいと思う。

 

なお、本稿における他院とは、ニュージーランドに拠点を構える一般の動物病院のことで、マッセー大学が国内の470名以上の獣医師を対象にオンライン調査を行ったデータを指すことにする。そして、詳細は以下の通りである。

◆ニュージーランドの動物病院で実施されている犬猫の卵巣子宮全摘出術◆
・術前の血液検査は、犬全体の23%、猫全体の13%で行われている
・麻酔前投与薬の組み合わせは、犬で70通り、猫で90通り以上であった
・アセプロマジン、ブトルファノール、プロポフォール、ケタミン、メデトミジン、モルヒネが多く使用されている
・大部分の犬猫は挿管され、イソフルランによる吸入麻酔で維持されている
・術後の疼痛管理に利用される鎮痛薬の組み合わせは、犬で40通り以上、猫で20通りであった
・犬では術後3日間NSAIDが投与されるのに対し、猫では手術当日にNSAIDを単回で投与するケースが多い
・殆どの動物は、手術から7-10日後に再診(術後検査、抜糸処置を含む)を受けている

 

上記のことから、犬猫の卵巣子宮摘出術における麻酔プロトコールおよび術式は、冒頭で述べたように、一通りではないことが明確に分かる。よって、現在勤務している動物病院の「方針」が自分自身に合っていないと感じている獣医師は、他院の卵巣子宮摘出術に纏わる一連の手法を学び、研鑽に励むことが望ましいのではないだろうか。

世界中で行われている犬猫の卵巣子宮全摘出術がデータベース化されて、その中から自分に合ったものを自由に選べる情報共有システムが整備されると、新人獣医師、ひいては、動物病院の診療レベルが今以上に向上していくのかも知れません。

 

参考ページ:

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31918840


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