ニュース

類鼻疽とその治療プロトコール~タイで背中に傷を負った犬が発症した稀な感染症~

投稿者:武井 昭紘

◆類鼻疽(Melioidosis)◆
類鼻疽とは、熱帯地域(東南アジア、中国南部、オーストラリア北部)の土壌や水に分布する細菌Burkholderia pseudomalleiに感染することで発症する人獣共通感染症で、粉塵の吸引や創傷から体内に侵入した病原体が、2日~数カ月、あるいは、数年の潜伏期間を経て、肺炎、敗血症、化膿性炎を引き起こし、最終的には死に至ることもある疾患である。加えて、類鼻疽は、ヒトは勿論のこと、偶蹄類、有袋類、犬、猫、海洋哺乳類に起きることが確認されており、基礎疾患(糖尿病、腎不全、免疫機能が低下する病気)が危険因子になると言われる。また、日本にはBurkholderia pseudomalleiが常在しておらず、国内感染例は無いのだが、海外で感染したヒトが日本で発症した例は報告されている。

 

とはいえ、当該疾患は、臨床獣医師を長年勤めている獣医師・動物看護師であっても、あまり聞き慣れない病気だと推察している。しかし、2019年9月、当該疾患に罹患した犬の一例が発表された。

なお、同発表を行ったフロリダ大学およびプリンス・オブ・ソンクラー大学(タイ)によると、2018年に研究プロジェクトでタイを訪れていたフロリダ大学の学生が発見した、有刺鉄線で背部に創傷を負った犬(ポメラニアンの血が混ざったMix)をプリンス・オブ・ソンクラー大学の付属動物病院で診察したところ、Burkholderia pseudomalleiによる菌血症を起こしており、ヒトの類鼻疽に対するプロトコールで治療したという。そして、その結果、罹患犬は良好に経過し、1年後の現在も元気に暮らしているとのことである。

 

上記のことから、この症例報告は、稀なケースではあるが、Burkholderia pseudomalleiは犬に感染することを改めて教えてくれているものと思われる。よって、2021年東京オリンピックに向けて、熱帯地域から本国へと移住してきたオーナーが飼育する犬が「謎」の肺炎や敗血症を患った状態で動物病院を訪れた際には、頭の片隅に「類鼻疽」というキーワードを思い浮かべることが望ましいのかも知れない。

今回紹介した症例は、メロペネムの静脈注射とスルファメトキサゾール-トリメトプリムの経口投与で改善したとのことです(用量は文献にてご確認下さい)。

 

参考ページ:

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31547534


コメントする