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アンチバイオグラムの重要性~小動物臨床における薬剤耐性菌の出現と向き合う方法~

投稿者:武井 昭紘

◆アンチバイオグラム(Antibiograms)とは◆
近年、世界各地の医療現場において発生する耐性菌感染症への対策の一つで、世界保健機関(WHO)や日本政府が発表したアクションプランを基に、細菌感染症に対する初期の(経験的な)治療に適した抗生剤を選択する、または、抗生剤の適切な使用の可否を評価するために用いられる客観的データとして、ある一定の地域を対象に作成される「薬剤感受性表」である。

このように聞くと、読者の皆様の中には、『アンチバイオグラムは人医療での感染症対策にとって大変に重要な図表』と認識される方も居るものと推察する。しかし、ひとたび、私たちが従事する動物医療業界に眼を向けると、人医療と同じく、耐性菌の出現に頭を悩ませている動物病院(獣医師・動物看護師)は非常に多いというのが現状ではないだろうか。そこで、本稿では、カンザス州立大学の取り組みを紹介し、小動物臨床におけるアンチバイオグラムについて考えたいと思う。

なお、同大学は、過去4年間(2013~2017年)に付属動物病院を訪れた尿路感染症症例(犬と猫)780件を対象に薬剤感受性試験の結果を集積しており、アンチバイオグラムを作成したところ、犬から分離された大腸菌(下部尿路感染症の主な病原体)の約半数がアモキシシリンに、92%がアモキシシリン・クラブラン酸に感受性を持っていることが判明した一方で、猫ではアモキシシリンおよびアモキシシリン・クラブラン酸に対する感受性を有する分離株(大腸菌)は確認できなかったと発表している。

上記のことから、犬の尿路感染症には、アモキシシリンおよびアモキシシリン・クラブラン酸が有効である一方で、猫のそれでは、両薬剤とも第一選択(経験的治療)に使用するべきではないことが窺える。よって、犬と猫の何れも診療対象とする動物病院では、今回紹介したアンチバイオグラムを参考にして、自院における尿路感染症に対する抗生剤療法を改めて検討し直して頂けると幸いである。

動物病院単位でアンチバイオグラムを作れるソフトやアプリケーションが開発されると、小動物臨床における抗生剤療法は大きな進化を遂げるのではないでしょうか。

 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31777977


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