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犬の僧帽弁疾患に対する遺伝子治療を開発するためのトライアル

投稿者:武井 昭紘

小動物臨床における僧帽弁疾患(Myxomatous mitral valve disease、MMVD)は、左心房と左心室を隔てる僧帽弁の変性に伴って、正常な血流に抗うように血液が逆流する病的現象が主体で、特定の犬種や中高齢の犬に生じることが知られている。また、この疾患は、遺伝性あるいは遺伝的素因によって発症するのではないかと考えられており、現在、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルのMMVDを繁殖計画で減らすデンマーク方式が開発され、その有用性が検証されている。つまり、犬のMMVDに関する研究は、獣医学の成書に記載される既存の内科的・外科的療法とは全く異なるアプローチで、「遺伝学・遺伝子学」の観点からも進められているのである。

そのような背景の中、タフツ大学は、MMVDに罹患した犬を対象にして、遺伝子治療の効果を解析するトライアルを開始した。なお、同トライアルでは、遺伝子治療に用いるアデノ随伴ウイルスに対する抗体を持たない、且つ、ステージB2(心不全には陥ってないが内科的療法が必要)の症例が対象となっており、変異が起きるとヒトに心血管系のトラブルを齎すtransforming growth factor beta receptor 2 (sTGFBR2)遺伝子および心筋組織の維持を担うfibroblast growth factor 21 (FGF21) 遺伝子を罹患犬に発現させることで、MMVDの病態が進行するのを食い止められるか否かを明らかにするとのことである。

上記のことから、今回紹介したトライアルが成功を収めれば、犬のMMVDに対する治療法が大きく変貌を遂げるかも知れないと期待ができる。よって、今後のトライアルの動向に注視していきたい。

本トライアルで適応される遺伝子治療が、MMVDの「発症予防」にも効果があるか否かを検討する研究も計画されることを願っております。

 

参考ページ:

https://trials.vet.tufts.edu/clinical_trials/treatment-of-myxomatous-mitral-valve-disease-with-stgfbr2/


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