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尿中ペプチドドーム解析~糸球体濾過率に依存しない犬の慢性腎不全マーカーの開発に挑む研究~

投稿者:武井 昭紘

犬の慢性腎不全(CKD)は、猫のそれよりは少ないものの、小動物臨床で比較的良く遭遇する泌尿器系疾患であり、早期発見・早期治療をすることで、QOLおよび臨床症状の悪化を遅らせることが望ましい病気であると考えられている。しかし、現在、一次診療施設で利用できるCKDを診断するための検査法は何れも、ある一定割合の腎機能が障害され、糸球体濾過率(GFR)が低下した時に、その真価が発揮される特徴を有している。つまり、GFRの変動以前の「腎臓の調子の悪さ」を把握するという観点に立ち、早期発見の意味を改めて見つめ直すと、異なるアプローチによって、全く新しい検査法の確立を試みることは大変に有意義であると考えられるのだ。

 

そこで、スウェーデン農業科学大学らは、人医療での診断マーカーの開発にとって重要な役割を担うと期待されている尿中ペプチドーム解析を用いて、①臨床上健康な犬と②CKDに罹患した犬における尿中のペプチド成分の違いを探索する研究を行った。すると、2つのグループから検出された5400種類にも及ぶペプチドの中で、両者を明確に区別できる物質がコラーゲンIフラグメントであり、①よりも②の尿に含まれる量が少ないことが判明したとのことである(ヒトのCKDでも同様の現象が起きる)。

 

これを受け、同大学らは、犬の体内に存在するコラゲナーゼの活性低下を起因として、断片化されなかったコラーゲンIが腎臓内に蓄積していき、腎臓の線維化およびCKDの病態悪化が進んでいくのではないかという仮説を立てている。

上記のことから、尿中ペプチドーム解析は、犬のCKDを理解する上で新たな見識を与えてくれる有用な研究手法であるものと思われる。よって、今回紹介した研究から発見されたコラーゲンIフラグメントを初めとする何千種類ものペプチドが一つ一つ分析されていき、将来的に、CKDがスタートする瞬間を捉えるような、「GFRに依存しない」尿中ペプチドバイオマーカーが誕生することを願っている。

猫のCKDについても、同様の研究が実施されることを期待しております。

 

参考ページ:

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31239169


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