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腹部正中切開で出来た創傷の大きさと縫合糸の長さのバランスに着目した獣医外科学的研究

投稿者:武井 昭紘

現在の人医療では、創傷部位の裂開・感染を最少限に抑えるために、傷口と縫合に纏わる様々な数値のバランスが検証されており、例えば、傷口の縫合に使用する縫合糸の全長(suture length。SL)とメスで切開した皮膚表面の長さ(wound length、WL)との比、つまりSL/WL比が4:1であることが理想だと言われている。しかし、ひとたび、小動物臨床に眼を向けると、このSL/WL比に言及した研究は大変に少なく、統一された見解は未だ確立されていないという現状がある。

そこで、オーストリアの獣医科大学は、約1年2ヶ月の間に付属の動物病院にて外科手術(腹部正中切開)を適応した175匹の犬猫においてSL/WL比を算出し、それを統計学的に解析する研究を行った。すると、冒頭の人医療で提唱されている比率とは異なり、小動物臨床では、SL/WL比が「4:1未満」になる割合が非常に高く、中央値は2.5±0.7:1を示すことが明らかになったとのことである。

上記のことから、ヒトと犬猫では、理想・標準と言えるSL/WL比に大きな差異があるものと思われる。よって、今後、各国の獣医科大学で同様の検証を実施し、ついで一次診療施設における外科手術症例でのデータ集積を行い、世界各地の臨床現場で利用できるSL/WL比が規格化されることに期待している。

創傷部位の裂開・感染を最少限に抑えることに加えて、「疼痛を減らす」という観点からも、理想的なSL/WL比が設定されていくことを願っております。

 

参考ページ:

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31107892


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