抗悪性腫瘍薬と位置付けされているトセラニブリン酸塩(パラディア錠など)は、犬の肥満細胞腫に対する治療薬として使用されており、実際に、当該薬剤の有効性を示す症例報告が多く上げられている。しかし、犬を用いたトセラニブリン酸塩に関する製薬メーカーの臨床試験結果を見ると、発現することのある毒性の欄に、好中球減少という「易感染性への懸念」が拭いきれない事象が起きる旨が記載されている。
そして、2019年5月、この懸案事項が現実となってしまった「世界初」のケースリポートが、オーストラリアの動物病院とイタリアの研究所より公開された。
なお、同発表によると、病理組織学的に低悪性度と判定された肥満細胞腫に罹患した犬(マルチーズ x パピヨン)が、トセラニブリン酸塩による12ヶ月の治療ののち、頻呼吸および体重減少を呈したため、精査(X線検査、細胞診、PCR法)を行ったところ、ニューモシスティス・カニス(Pneumocystis canis)に感染していることが明らかになったとのことである。
上記のことから、チロンシンキナーゼ阻害剤であるトセラニブリン酸塩による治療プロトコールには、少なからず、日和見感染のリスクが伴うことが示唆されたものと考えられる。よって、この薬剤を使って担癌動物の治療にあたる獣医師は、感染症への細心の注意を払い、対策についてオーナーと充分に話し合う必要があるのではないだろうか。
参考ページ:
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31025329