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不妊手術を受けた犬に起きる排尿トラブルに関する統計学的データから獣医師が考えて欲しいこと

投稿者:武井 昭紘

ある研究によると、メス犬全体の3%に不適切な排尿(尿失禁)が発現すると言われており、その割合は、不妊手術を受けた個体にのみ焦点を当てると、5%を超えるとの報告もなされている。つまり、不妊手術の合併症に、尿失禁が挙げられるということだ—–。

 

この事象を、オーナーの視点から見れば、予期せぬ妊娠を避けるとともに、乳腺腫瘍や子宮蓄膿症の発症を予防する目的で臨んだ愛犬の不妊手術の結果として、尿失禁で悩むというリスクが上昇すると捉えることができる。故に、不妊手術は病気の予防になると獣医師から聞いていたのに、

『こんなはずではなかった』
『尿失禁になるなんて聞いてません』

といった後悔の念を抱く恐れがある由々しき大問題と言えるのではないだろうか。

そこで、獣医師の皆様には、以下の統計学的データを基に、犬の不妊手術に潜む「尿失禁の影」について、オーナーにインフォームド・コンセントを行うべきか否かを改めて考えて頂きたいと思う。

 

イギリスの王立獣医科大学(Royal Veterinary College、RVC)は、尿失禁に着目して、2014年11月から2017年10月に症例データベースVetCompassに参加したメス犬33万匹の電子カルテを集積・解析し、以下のような結果を得たと発表した。

◆尿失禁が生じやすくなる個体側のファクター◆
・不妊手術を受けた個体は約3倍、尿失禁を起こしやすくなる
・年齢を重ねると(3歳未満よりも9歳以上で)1.7倍、尿失禁を起こしやすくなる
・体重10kgを超えると1.9倍、尿失禁を起こしやすくなる(30kgを超えると3倍に上昇)

 

上記のことから、不妊手術によって尿失禁の発症リスクが非常に高まり、ここに、体格(大型犬)、加齢という因子が加わることで、そのリスクが、目を見張るほどに上昇することが窺える。よって、今回紹介した研究を、如何にして臨床現場(インフォームド・コンセント)に活用するのか、言い換えると、不妊手術後の排尿トラブルに関して説明するのか伏せるのか、獣医師個々人、ないしは、動物病院単位で、じっくりと検討して頂けると幸いである。

同研究によると、尿失禁に最もなりやすいのは、ハンガリアン・ビズラという犬種だとのことです。

 

参考ページ:

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jsap.13014

https://www.rvc.ac.uk/vetcompass/news/neutering-bitches-trebles-the-risk-of-urinary-incontinence


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