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外傷を伴わない血腹を呈する犬において血管肉腫を疑うスコアリングシステム

投稿者:武井 昭紘

脾臓などの腹部に収まる器官・組織に発生する血管肉腫(hemangiosarcoma、HSA)は、腫瘍組織の拡大に伴って、血管外へと血液が喪失するリスクが上昇していく特徴を有しており、実際に、腹腔内に出血(血腹)を起こしてしまえば、急激にショック状態に陥っていくため、生命の危機に瀕する腫瘍性疾患であると言える。そのため、血腹を呈する動物を診察する際には、必ず血管肉腫の有無を鑑別しなければならず、身体検査および臨床検査から、その存在を疑える客観的評価を確立することが望ましいと思われる。

そこで、アメリカとカナダの大学らは、過去14年間の診療記録から抽出した外傷を認めない血腹を呈する犬400匹以上を対象にして、血管肉腫を疑うためのスコアリングシステムと、得点数ごとにおける有病率を調査する研究を行った。なお、同研究でのチェック項目、グルーピングおよび調査結果は、それぞれ、以下に示す通りである。

<チェック項目>
①体重
②血漿中総タンパク質濃度
③血小板数
④「胸部」X線検査所見

<グルーピングとHSA有病率>
①低リスクグループ:40点以下、36%
②中リスクグループ:41~55点、76%
③高リスクグループ:56点以上、96%

 

上記のことから、③の犬では高い確率でHSAに罹患していることが窺えるため、今回使われているスコアリングシステムには、一定レベル以上の有用性があるのではないだろうか。また、一方で、①に属する犬にも、少なからずHSAの症例が存在していることから、低リスクグループが抱える血腹の原因を如何にして鑑別していくかを検討していくことが、今後の大きな課題であると考えられる。よって、更なる検証や大規模な臨床試験が実施され、本研究のスコアリングシステムが改良に改良を重ねられていくことを期待している。

このスコアリングシステムが新人の獣医師に血管肉腫を「疑う」ヒントを与えてくれる未来が訪れることを願っております。

 

参考ページ:

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30994972


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