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犬におけるイソフルランの最小肺胞濃度を低下させる麻酔前投与薬に関する研究

投稿者:武井 昭紘

動物病院における麻酔処置では、ガイドラインまたは成書に明記される用法・用量を参考にした麻酔薬の使用と、術者の経験による麻酔薬の種類の取捨選択が混在しているとともに、動物の体質・病態が複雑に重なり、一つとして同じ経過はないと言えるほどに多様な麻酔記録が生まれている。故に、小動物臨床の麻酔プロトコールは、再現性という視点から未だ発展途上と考えられ、内容の見直しやアップデートを絶えず繰り返していくことが非常に重要と思われる。

そのような背景の中、オハイオ州立大学は、イソフルランの最小肺胞濃度(minimum alveolar concentration、MAC)に対するトラゾドンの効果を確認する研究を行った。なお、トラゾドンは、セロトニン遮断再取り込み阻害薬(SARI)に分類される薬剤で、脳内に放出された神経伝達物質セロトニンの再取り込みを阻害し、且つ、5-HT2受容体を遮断する作用を併せ持ち、神経の興奮を抑えて鎮静効果を発揮するとされている。また、同大学によると、臨床上健康な犬にトラゾドンを前投与すると、有意にMACが低下(17%前後のダウン)するとのことで、当該SARIは、吸入麻酔薬の削減に有用であることが示されている。

よって、今後、実際に検査・手術を控えた症例を対象に、トラゾドンの「MAC削減効果」について検証が行われ、麻酔リスクを少しでも抑えるプロトコールの考案へと繋がることを期待している。

吸入麻酔の濃度を極限まで低下させる麻酔プロトコールの確立に向けた研究が、数多く行われることを願っております。

 

参考ページ:

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30297130


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