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イギリスで世界初の「イヌ用培養肉」販売開始 事前アンケートでは与えてもよいが多数

投稿者:AsaT

2025年2月、世界初の「培養肉ペットフード」の店頭販売がイギリスで始まった。イギリスの飼い主の反応はどうなのだろうか?

記事によると、培養肉とは動物細胞から人工的に作った食用肉のことです。今回、ロンドンの企業「ミートリー(Meatly)」が開発、販売した犬用おやつ「チックバイツ(Chick Bites)」は、鶏卵から採取した細胞を培養した培養肉と栄養素を補完するための植物性材料とを組み合わせたものです。【茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト/博士[理学]・獣医師)】とのこと。

日本では「歴史の浅い人工食品を愛犬に食べさせる」と考えた時、躊躇する飼い主も少なくないかもしれません。けれど、イギリスでは「ペットに培養肉を与えること」は私たちの予想を超えて受け入れられているという研究もあります。 培養肉ペットフードはどのような経緯で開発されたのでしょうか。イギリスではどれくらいの割合の人が、培養肉を受け入れているのでしょうか。概観してみましょう。

「培養肉」は「代替肉」と混同されがちです。 どちらも「天然の食肉の代わりとして作られた食品」ではありますが、代替肉は「植物性の原料から作った肉に似せた食品」のことで、「大豆ミート」がよく知られています。簡単にいえば、ヴィーガン(完全菜食主義者、動物性食品を口にしないライフスタイル)も食べられるのが代替肉、動物性なので拒まれるのが培養肉です。代替肉を使った料理や冷凍食品は、日本でも徐々に広まっています。

一方、培養肉(細胞性食品)に関しては、日本の規制当局はまだ慎重な姿勢を見せています。世界的に見ても、規制当局が人間用として培養肉を承認している国はシンガポール、イスラエル、アメリカだけで、ペットフードとして承認している国はイギリスのみです。

しかし、アメリカ・フロリダ州では州内での培養肉の生産・販売を禁止する法律「Senate Bill 1084」が24年7月に施行されたり、EU諸国でもオーストリアやフランス、イタリアでは培養肉に対する慎重な態度を崩さなかったりと、米国内や欧米諸国でも足並みは揃っていません。なお、イギリスでも人間用の培養肉はまだ承認されておらず、培養肉の世界的な普及にはまだ時間がかかりそうです。

そもそも、「培養肉」の開発は、①動物を殺さずに生産できるため動物福祉の観点から好ましい、②従来の畜産と比べて生産における環境負荷が大幅に軽減できる、という2点が大きな要因となっています。

欧州環境機関(EEA)は、培養肉は従来の牛肉生産と比べると45%少ないエネルギー消費量で製造できると試算しています。さらに、もし製造に再生可能エネルギーが利用されれば、温室効果ガスの排出量は最大92%の削減、土地の使用量は95%、水の使用量は78%も減らすことができると言います。

特に牛肉生産は、二酸化炭素とともに主要な温室効果ガスであるメタンの最大の排出源であり、広大な放牧地と豊富な水も必要とするため、大きな環境負荷がかかります。培養肉は工場での生産なので二酸化炭素を排出しますが、環境への影響は大きく減らせると期待されています。

「ペットを飼っている割合が高い国で消費される肉の約20%は、人間ではなくペットが消費している」とイギリス・ウィンチェスター大学のアンドリュー・ナイト教授はBBCに語っています。畜産の環境への影響は、人間だけでなくペットの食も考慮すべき時代になったと言えるでしょう。

さらに、著名なオープンアクセス科学誌「PLOS ONE」に22年に掲載された論文によると、イギリスの研究者による729人を対象にした調査では、「培養肉を自分で食べてもいい」と答えた者は32.5%だったのに対し、「ペットに与えてもよい」と答えた者はそれを大きく上回る47.3%でした。

ペットに与えてもよいとした人々の内訳は、「自分は培養肉を食べてもよいからペットにも食べさせてもよい」と考える者(237人中193人、81.4%)、「自分はヴィーガンやベジタリアン(卵や乳製品を食べることもある菜食主義者)なので食べないが、ペットには培養肉を与えてもよい」と考える者(154人中86人、55.9%)などいくつかのパターンに分かれました。ただし、肉食の回答者のうち、「自分は培養肉を食べたくないがペットには与える」と答えた者は、ごく少数(114人中11人、9.6%)でした。

今回のミートリーの犬用培養肉の販売実現は、24年7月にイギリス食品基準庁(FSA)、環境・食糧・農村地域省、動物・植物衛生庁の審査を経て、製造の認可を受けたことから始まりました。

同社は開発した「チックバイツ」について、「1個の鶏卵から1つの細胞を採取して培養した。採取した1個の細胞からペットに一生食べさせるのに十分な培養肉を生産することは可能だ。植物由来の原料と組み合わせることで、ペットの健康に必要な必須アミノ酸、重要な脂肪酸、ミネラル、ビタミンをすべて含んでいる。従来の鶏の胸肉と同じくらいおいしくて栄養価が高い」と語っています。

商品は植物性ペットフードのブランド「THE PACK」と提携しており、価格は1パック(50グラム)あたり3.49ポンド(約660円)で、犬用おやつとしては中程度の価格帯とのことです。

なお、同社は以前、イギリスの別の植物性ペットフードメーカー「Omni」と提携して、培養肉キャットフードの開発を進めていました。昨年の認可取得のため、ドッグフードへと方向転換しましたが、培養肉キャットフードにも引き続き意欲があり、猫への給餌試験も計画中とのことです。

日本でも、「食べられるアヒル肝臓由来細胞」の作成に成功したインテグリカルチャー株式会社や、22年3月に日本初の「食べられる培養肉」の開発に成功し「培養ステーキ肉」の開発に取り組んでいる日清食品グループなど、数多くの企業が培養肉の研究に勤しんでいます。

最も気になる安全性についてはWHO(世界保健機関)とFAO(国際連合食糧農業機関)は23年4月にリポートを発表するなど、現在進行形で議論が進められています。

日本で人間用やペット用の培養肉の流通が認可された時、あなたはどのような選択をするでしょうか。今から考えておいても早すぎるとは言えないでしょう。


https://www.newsweekjapan.jp/akane/2025/02/post-106.php

<2025/02/28 Newsweek日本版>

イギリスで世界初の「イヌ用培養肉」販売開始 事前アンケートでは与えてもよいが多数(写真と記事は関係ありません)

 


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