「認定牛削蹄(さくてい)師」という資格がある。家畜の牛のひづめを削って手入れをする仕事だ。館山市の山川弘恭さん(46)が6月、この資格の最高位である「指導級認定牛削蹄師」を取ったことが分かった。
記事によると、この資格を取った人は県内では過去に5人しかおらず、山川さんは「ひづめは牛の『第2の心臓』といわれる。勉強を続けて新しいものを吸収し、これからも農家の役に立ちたい」と仕事への情熱を語る。
牛のひづめは、伸びすぎたり管理が悪かったりすると、病気や体の障害で家畜としての価値をなくす場合もある。牛削蹄師は、ひづめを手入れして病気を防ぎ、健康を管理する、酪農家には不可欠な存在だ。「牛のアシの専門家」ともいわれる。 削蹄師の資格は、公益社団法人の日本装削蹄協会(東京)が認定する。この資格には下から順に2級、1級とあり、指導級は1級よりも上の最高位になる。
指導級を取るには、1級を取得して9年以上で、研修を受講して昇級試験に合格することが必要だ。求められるレベルは「専門的な削蹄知識と技術を有し、削蹄と護蹄衛生全般の指導ができること」とされる。指導級を取った人は、制度開始の1981~2024年の累計で、全国で234人。県内では山川さんが6人目になる。
山川さんは「房州削蹄所」の屋号で、主に県内で活動。現在は、30軒ほどの農家が「お客さま」。小まめなメンテナンスを維持するために、1軒当たり1年に4~5回は訪れるようにしている。手掛ける牛は年間で延べ5000~6000頭に上る。 牛によって、最も良いひづめの整え方はそれぞれ違う。牛舎の造り、飼育環境、年齢、体の大きさ、妊娠しているかいないかなど、さまざまな要素をみて、グラインダーなどを使い、人間の足裏に当たる部分をその牛に合った形に整えていく。
酪農業界では大規模経営が増えており、かつてに比べて農家1軒当たりの牛の数は多くなっている。高カロリー高タンパクの餌を食べさせているため、体も大型化している。「昔と同じやり方では追い付かない」と山川さんは話す。 このため、山川さんはここ10年ほどの間、時代の変化に対応するために、スムーズに牛を持ち上げたり体を押さえたりできる専用の機械や電子カルテなど、最新の機器を導入。牛舎や牛ごとに傾向を把握し、酪農家にデータを提供、アドバイスしている。
最も大切にしているのは、農家とフェアな関係を築くこと。「お互いの情報を交換できる関係づくり、基本的な礼儀とコミュニケーションが技術以上に大事。幼い頃から続けてきた剣道が教えてくれた。これからも新しいものを吸収し、農家に還元していきたい」と語る。 南房総市和田地区の牛農家は「年に3回以上来てもらえることで、牛の病気が目に見えて減った。データも取ってもらえるから今の状況が分かりやすいし、いろんな農家を見ているので、相談にも乗ってもらえる」と感謝する。
山川さんには「この大切な仕事を次の世代につなげていきたいが、後進が少ない」との悩みもある。 山川さんは安房農業高校(現安房拓心高校)出身。この仕事に出合ったのは、24歳のころ。当時働いていた南房総市丸山地区の牛舎で、後に師匠になる原幸夫さんに出会い、その働く姿に一目ぼれしたのがきっかけだった。「オーラも何もかも違う。かっこいい。自分も原さんのようになりたい」。
頼み込んで弟子入りし、3年間、牛舎の仕事と並行して削蹄師の修行に当たった。 27歳で、関東甲信越地区の牛の削蹄競技大会で優勝したことを機に独り立ちするまで、働き通しの日々だったという。削蹄は相手が大きく、重労働の作業だ。しかし、機器も進化しており、かつてほど身体的なハンディキャップは減ってきているという。
「志す人がいれば、農家とちゃんとコミュニケーションができて、しっかりした仕事をする人を育てたい」と思いを語った。
https://bonichi.com/2024/08/23/815408/?hilite=%27%E5%89%8A%E8%B9%84%E5%B8%AB%27
<2024/08/23 房日新聞>